メガネ手帖

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メガネが綴る日々の出来事、妄想、空想、よしなしごと

グローバルプロジェクトを数年経験した学び

外資系企業に転職して5年。それまで全く外国人と接することはなかったのに、いきなり沢山の外国人に囲まれて仕事をすることになってしまって、それなりにいわゆる「グローバルプロジェクト」というものを経験してきた。せっかくなので、そこで得た学びを共有できればと思います。


グローバルプロジェクトの種類
「グローバルプロジェクト」と言っても、バリエーションが色々ある。日本側が主導で海外に展開していくロールアウトタイプや、逆に海外側が主導で日本に導入していくロールインタイプのプロジェクトだったり、あるいは、単に日本国内のプロジェクトのメンバーに外国人がいるだけのケースもある。その場合も、ステークホルダーが外国人のケースとか、オフショア開発先が海外とか、いろいろなケースもあるだろう。

それぞれのパターンごとに異なる学びもあるだろうけれども、全体に共通している部分も多くあると思うので、細かな場合分けはせず、基本として理解しておいた方がいい事を書いておきたいと思います。


1. 常識の違いを理解する
こうやって書いちゃうと、この後出てくるものも全部これに該当しちゃうのですが(笑)

よく、外国語を学ぶ時に「言葉の違いもさることながら、文化の違いを理解することが大事」と言われます。まぁそうなんだろうな、という一般的な感覚しか持っていなかったのですが、これが仕事で実際に体感すると「マジでそれな…」となります。

「文化の違い」というと、生活様式とか習慣の違い、とかそういう風に捉えがちですが、それも含めてつまり「当たり前と思っていること、常識が違う」ということなんです。そして、自分が「当たり前」だと思っていることって、自分ではなかなか気付けないんですよね。

例えばプロジェクトの初期段階、僕はプロマネとしてアサインされるとまず最初にプロジェクト計画を立てようとする。そうすると様々な課題というか、プロジェクトを始める前に確認しなければならないことが見えてきて、中にはプロジェクトそのものを止めかねないリスクも出てきたりする。なので、どういうアプローチで進めるべきか、ということをチームで考え始める。これは僕にとって至極「当たり前」の進め方だった。

しかしメンバからは「なぜ始まる前からそんな先のことを心配するんだ?」「やってみないと分からないだろう」という意見が出て話が進まない。いやいや、どう考えたって先が見えてるだろ。そう思うのは僕だけで、まわりは皆「とにかくスタートしよう」「やりながら考えよう」と言う。

これはアジャイル型のプロジェクト(方向性だけ決めて、スコープやアプローチを変えながら進むやり方)というわけではもちろんない。単に「計画」の精度に対する常識が全然違うのである。最初はこれにかなり苦労したというか、何度も衝突しまくった経験がある。

これ以外にも具体的なケースを書き出したらキリがないが、自分が「当たり前」と思ってしまっていた至るところでギャップが生まれていた。考えてみればそれまで15年間、ずっと日本人だけでプロジェクトをやってきたのだから、それなりに積み上げてきた経験「当たり前」がある。それは悪いことではもちろんないが、自分が思っている以上に、自分が当然と思っている「常識という土台」を使って仕事をしていたのだ、ということは意識しておいた方がいいと思う。

そのことに気付くコツとしては、話をしている時に「なんでコイツはこのタイミングでこんなこと言い出すんだ…?」と思ったら、それは「常識の違い」が表れているサインかも知れないと疑うのがいいだろう。彼らには彼らなりのロジックや考え方があって発言しているので、真摯に耳を傾けて聞いてみよう。(結果としてわけが分からないことも多いのだけれども 笑)


2. 「根回し」は日本独特のものではない
これは僕がそう思っていただけかも知れないが、日本には「本音と建前」や「根回し」という言葉があり、公式な議論や決定の前に裏で交渉しておく、という、どちらかと言うとアンフェアな文化があると思っていた。海外ではストレートにモノを言うと聞いていたし、「本音と建前」などという文化はないのだろうと思っていたが、全くそんな事はなかった。どの国の人も普通に本音と建前があるし、むしろアメリカ人なんかは日本人よりも本音と建前を使い分ける。というか、公式の場では建前しか言わないことがほとんどだ。

このあたりは特に昨今の「ポリティカル・コレクトネス」の反動を見ていれば分かると思うが、建前があれば本音がある。これは世界各国変わらないという事だろう。たぶん「本音と建前」という言葉がないのは、それを言う必要がないくらい当たり前だからじゃないだろうか。知らんけど。

なので仕事においても、公式の会議でガンガンにやり合うよりは、事前の根回し、交渉が大事である。案を作るところ、根回しの打ち合わせではストレートに本音をぶつけて案を固いものに仕上げ、公式の場では建前をうまく使ってスムーズに意思決定を行う。この使い分けが重要だと思う。


3. 「できる」と考える感覚が違う
オフショア開発の経験談でよく聞く話だとは思いますが、オフショア先に「やれるか?」と聞いた時に、日本人なら8割以上できる自信がないとなかなか「できる!」と断言はできない。だが彼らは5割できそうなら「できる!」と断言してくる。あるいは、「できるけどユーザーの使い勝手は最悪」と言う場合も「できる!」と言い切ってくるので、注意が必要である。

オフショアとのやり取りの場合は、
① 必ず進捗を見える化して、進んでいるのかいないのか明確にすること
② 受け入れテストは入念に行うこと。品質に改善が見られない場合は、現場で対応せずに経営層、上層部にエスカレーションして対応すること(海外ベンダーの場合)
あたりをかなり意識しておかなければならないと心に刻もう。


4. 文字ドキュメント文化に乗らなくていい
これは特に欧米の人に多いのだが、とにかくドキュメントが文字ばかりで分かりづらい場合が多い。Visionや概念的な話の場合はイラストが入っていることもあるが、実務的なドキュメントはほぼ全てが文字で書かれている。これが非常に分かりづらい。

当初、これが欧米の文化なんだと思い、慣れなければと思って文字ばかりのドキュメントに慣れようと努力していたが、仕事を進めていくにつれ、実は欧米の人たちも文字だけではちゃんと意思疎通できていないことが分かってきた。「おめーらも分かってねーんじゃねーか」と心の中で盛大に突っ込んだのをよく覚えている。

そういえば旅行に行った時も、レストランのメニューが文字だらけで全然分からなくて、頼んでみたら全然思っていたのと違ったものが出てきた経験がある。欧米の人に「日本のメニューみたいに写真付きにしてくれればいいのに」という話をしたところ、「写真を見せると、今度はその通りじゃないと文句を言われるリスクが上がるからやらないんじゃないか」と言われた。もしこれが本当なら、「文字で書くことで曖昧にしておく」という文化というか、ある種の知恵があるのかも知れない。

ひょっとしたら文字じゃなくて、簡便な図を使ったりしたら逆に伝わらなかったりするんだろうか、と心配していたのですが、実際に使ってみると「分かりやすい」と評判が良かったりする。なんなんだよと思ったが、このあたりは国は関係なく、やっぱりイメージや認識を図式化して共有するということは大事だった。

そしてむしろ、海外とのやりとりの場合は電話(テレカン)がほとんどなので、お互いの顔を見ながら、とか、白板を使いながらというやりとりができない。そういう場面で、声だけでやり取りするのは非常に危険である。日本語同士でもテレカンでの意思疎通は難しいのに、英語でのやりとりで完全に意思疎通ができると思う方がおかしい。必ず資料は準備するべきだし、その資料は図示も含めて明瞭簡潔にしておかなければならない。よく準備8割というが、海外とのテレカンでは準備が9割5分だ、くらいに考えておいていいと思う。


番外:インド人の首の振り方について
インド人に説明をすると、ものすごい真面目な顔で「わかった」って言いながら首を横に振っていることがあり、「え、なに?わかってるの、わかってないの、どっち?」となったことがあった。あとから「それは分かったという意味だ」と教えられたのだが、最初は全く意味が分からなくて困惑した覚えがある。今改めて調べてみると、こんな記事が載っていた。
https://gigazine.net/news/20180723-india-mystifying-nod-code/

そうそう、縦でも横でもない不思議な首の振り方なんだ。こうやって冷静に動画で見るとすごい面白いが、知らずにこの現場にいると「どういう意味?」とスゴイ困るので、知っておいて損はないと思う。

 

ものすごく大括りに書くと、わすが4点にまとめられてしまった(笑)念のために断っておくと、今回あえて主語を大きくして「外国人は」とか「欧米の人は」という書き方をしていますが、実際は当然「人による」です。ものすごくきっちりしたインド人もいるし、大雑把な計画しか立てられない日本人だっている。だけど「人それぞれ」って言っちゃうと話が終わってしまうので、大味なカテゴライズをして傾向みたいなものを伝えられたらいいのかな、と思っています。

なにか1つでも「へぇ」と思えることがあったなら嬉しいです。逆に「私はこう思ってるよ」みたいな話も聞かせてもらえたら、それも嬉しいですのでぜひぜひ!