メガネ手帖

メガネ手帖

メガネが綴る日々の出来事、妄想、空想、よしなしごと

UXデザインと風見鶏

流行りのUXデザインを学ぶというトレーニングに参加させてもらった。その中のエクササイズで1つ面白いのがあったので共有したい。2人組になってそれぞれ駄菓子を2つ選び、1人がその駄菓子を自由に食べ、もう1人が観察者としてその様子を細かくメモをする、というものだ。
 
僕が観察者になった時、相手はまずうまい棒から食べ始めた。彼はうまい棒の袋を開ける時、ものすごくちょっとずつ開ける。小さく開けてかじり、また少し開いてかじる。するとうまい棒のカスが机に少し溢れる。それを繰り返して食べ終わった後、ティッシュでパッパッとカスを払って下に落とす。そういう食べ方をしていた。
 
その観察の後、「気になった点について、なぜそのような行動をしていたのかを確認して下さい」という指示があった。僕は「なぜあんなにちょっとずつ開けたのか」を聞くと、彼は「一気に開けるとカスが散らばってしまうのが嫌だった」と言う。なるほど、汚したくないのかと思った。
 
しかしキレイ好きであるなら、その後カスをパッパッと机の下に落としたのはおかしい。その点を確認すると、彼は「散らばって服や身体が汚れるのが嫌だった。僕は身体が弱いし、家に子供がいるので、雑菌みたいなのは持ち込まないようにしたい」と言う。
 
さらに暫く考え込んだ後、「あと、そもそも僕は『表面的にキレイならOK』というポリシーがあるので、机がキレイなら全然OK。部屋を片付けるときも、クローゼットに放り込んで見えなくなればとりあえずOK」と言っていた。
 
彼が普段気をつけていることやポリシーが、駄菓子を食べるというだけの行動にまで現れていたことに驚いた。ちなみに僕はというと「2つのお菓子を交互に食べる」という食べ方をしており、「何事もバランス」と考えているポリシーが思いっきり行動に出ていて自分でも笑ってしまった。
 
このように、人の行動はその人の内面に大きく依存する。なのでデザインをする時は、人の内面からアプローチし、どういう人がどういう行動を取ることを好むのか、それに適したデザインとは何か、ということを考える。これがUXデザインの基本である、という、そういう導入のエクササイズだった。
 
なるほど、些細な行動にもその人が良く現れているんだな実感し、感心した。感心しながら僕は、そういえば昔似たようなことがあったなぁと思い出していた。
 
-----
あれは風の強い日のこと、横断歩道での出来事だった。僕が横断歩道にたどり着くと信号は赤だったので、青になるのを待っていた。待っていると、ふと、前のおっさんがなぜかこっちを向いていることに気付いたのだ。
 
横断歩道で待っている間は進行方向というか、道路の方を向いているのが普通だろう。だけどそのおっさんは完全に後ろ向きになっている。なんでだろう、と思ってしばらく見ていると、今度は角度を変え、横断歩道に対して横向きになった。それからも、少しずつ角度を変えながら信号を待っている。
 
どういうことなんだろうと思ってしばらく観察していると、ある事に気付く。どうやら、風の吹く向きが変わるとおっさんの向きも変わる、という因果関係があるようだ。風に対して背中を向けるような角度に微調整されている。
 
さらに観察を続け、僕はその理由に辿り着いた。そのおっさんは後ろの髪を強引に前に持ってきているタイプのハゲだったのだが、風でその髪がひっくり返らないよう(写真参考)、風が後ろから当たるように角度を調整していたのだ。
 
風に対して常に後ろ向きな姿勢。しかし「風と戦う」という意味ではおっさんの気持ちは前向きなので、このおっさんの性格は前向きなのか後ろ向きなのかどっちなんだろうか、などと思いながら眺めていたが、その間もおっさんは風が吹く向きに合わせてカタカタと向きを変えていた。風見鶏みたいなおっさんである。
 
「人の行動はその人の内面に大きく依存する」というUXデザインの話から風見鶏のおっさんを思い出したのだが、改めて書くとぜんぜん違う話だったな。ぜんぜん違うんだけど、UXデザインのエッセンスが少しでも伝わればいいなと思います。無理か。